重度のアトピーを抱えて生まれた、一人の赤ちゃんがいました。
その子のお母さんが、わらにもすがる思いで連れてきたのが、熊本県植木温泉の「鷹の家旅館」でした。1ヶ月ほど通っていただいた頃。あれほど赤くただれていた肌が、嘘のようにきれいになっていったのです。それを目の当たりにした時、私は改めて思いました。
「この温泉は、本当にすごい力を持っている」
はじめまして。熊本県植木温泉「鷹の家旅館」三代目、井村武広(いむら たけひろ)と申します。温泉コスメブランド「ONCOS(オンコス)」の生みの親でもあります。
このページでは、なぜ老舗温泉旅館の三代目である私が、化粧水を作ることになったのか。その背景にある、130年続く植木温泉の物語と、井村家三代にわたる挑戦の歴史をお話しさせてください。
第一章:田畑を売って始まった、井村家の物語
鷹の家旅館の創業は、昭和44年(1969年)。今年で56年目を迎えました。
創業者である初代は、「コンピューター付ブルドーザー」との異名を持つ田中角栄を思わせるような、知略家の荒くれ者でした。一方で、思いやりがあって、面倒見のいい親分肌。若い頃はミシンの営業会社でトップの成績を取るほどの仕事人でもありました。
そんな初代が決心したのが、先祖代々続いてきた田畑をすべて売り払って、寿司屋を創業するという、当時の常識からすればとんでもない一大決心でした。
こうして生まれたのが「奴(やっこ)寿司」。やがてお客様に旅館業を望まれて「奴旅館」となり、最終的に「鷹の家旅館」へと屋号が変わっていきました。最初は近くの旅館から温泉を分けてもらい使っておりましたが、初代は、自らの手で自家源泉を掘るという挑戦まで成し遂げました。今、私たちが守っている温泉は、初代が地面の下から掘り当ててくれた、家族の宝物なのです。
初代から事業を引き継いだ二代目、つまり私の父は、初代とはまったく対照的な人でした。怒ったところを見たことがないほど穏やかで、真面目で、一生懸命。荒波を切り開いた初代の事業を、誠実な手腕で安定させ、旅館をフルリニューアルし、現在の鷹の家旅館の礎を築いてくれました。
そして、私はその三代目として、植木温泉の鷹の家旅館で生まれ育ちました。
小さい頃から、毎日、家のお風呂代わりに温泉に入っていました。冗談ではなく本当の話で、高校を卒業するまでニキビなんてできたことがありませんでした。今振り返れば、それが「うちの温泉のすごさ」を体感した、最初の原体験だったのかもしれません。
第二章:二代目女将が生んだ「ひらしま美人」
2008年10月21日。これが、ONCOSの第一号商品となる温泉水化粧水「ひらしま美人」の誕生日です。
言い出したのは、二代目女将。つまり、私の母でした。
「うちの温泉のお湯で、お肌がきれいになるって、お客様がみんなおっしゃってくれる。だったら、この温泉水を使った化粧水を作って、ご自宅でも使っていただけたらいいんじゃない?」
地元・熊本にある化粧品製造工場「地の塩社」に依頼し、何度も試作を重ねて、「ひらしま美人」は世に出ました。
「ひらしま」という名前は、植木温泉の本来の呼び名「平島(ひらしま)温泉」から取りました。植木温泉は、もともと「平島温泉」と呼ばれていたのです。それが、昭和44年の町村合併によって「植木温泉」と改名されました。私たちは、この温泉の原点を忘れたくない。だから、商品名に「ひらしま」を冠したのです。
正直に申し上げると、発売当時の私は、化粧水にもオンライン販売にもまったく興味がありませんでした。フロントの片隅に並べて、お客様が手に取ってくれて、喜んでくださる。それだけで充分でした。戦略らしい戦略もありませんでした。
でも、この時に母が踏み出した小さな一歩が、後に私たち家族を、本当の意味で救うことになるとは──当時の誰も、想像していませんでした。
第三章:三代目への継承、そして未曾有の危機
少し私自身の話をさせてください。
高校(菊池高校・商業科)を卒業した私は、最初から旅館を継ぐつもりでした。料理の技術が必要だと思い、熊本市内の料亭に飛び込み、それから阿蘇の高級旅館、そして京都の旅館で修行を積みました。
22歳で熊本に戻り、1年間の営業職を経験。その頃、社会の荒波にもまれて、いくつかの挑戦と失敗を重ね、自分の進む道について悩んでいました。そんな時、初代の祖父に相談したのです。
「もう帰ってきて、家をやりなさい」
その一言が、私の背中を押してくれました。23歳で鷹の家旅館に戻り、そこから10年以上の旅館の運営を任され、平成28年(2016年)11月1日、三代目代表に就任しました。
正直に告白すると、私は30歳ぐらいまで、家業に迷いを抱えていました。利益はちゃんと出ている。でも、なぜか面白くなかったのです。35歳を過ぎたあたりから、ようやく「お客様が求めていること」と「自分がやりたいこと」が一致してくる感覚がありました。そこからは、迷いはなくなっていました。
就任した当時の鷹の家旅館は、辛うじて黒字を確保しているものの、売上も利益も、少しずつ右肩下がりになってきている──そんな状況でした。「何か手を打たないといけない」と思いながら、日々を過ごしていました。
そんな矢先のことでした。新型コロナウイルスが、世界を襲ったのは。
第四章:絶望の中で、唯一売れたもの
2020年春。緊急事態宣言。人の移動が止まりました。
旅館業は、人が動かなくなった瞬間にすべてが止まる、極めて脆い商売です。宿泊予約はゼロ。宴会の問い合わせもゼロ。温泉だけが、誰も入る人のいないまま、変わらず湧き続けていました。
最初は「3ヶ月くらいで終わるだろう」と楽観していました。次は「半年で落ち着くだろう」と。「1年経てば」と。しかし、状況はまったく改善しませんでした。
毎月、とても大きな赤字がただただ積み上がっていきました。政府の補助はありがたかったものの、鷹の家旅館程度の規模を持つ旅館では到底カバーしきれず、キャッシュは止めどなく流出していきました。結果として、コロナ禍の5年間で、私たちは旅館の歴史でも経験したことのない、甚大な赤字を抱えることになりました。
毎晩、眠れない夜が続きました。先祖代々が田畑を売ってまで始めた家業を、自分の代で潰してしまうのかもしれない。初代と二代目が築いてくれたものを、三代目で終わらせてしまうのか。その恐怖と戦いながら、それでも家族を守らなくてはいけない、スタッフの生活を守らなくてはいけない、お客様にいつか必ず戻ってきていただかなくてはいけない。
そんな日々の中で、ふと気づいたことがありました。
温泉も、宴会も、宿泊も、すべて売れなくなった鷹の家旅館で、たった一つだけ、売れ続けていたものがあったのです。
「ひらしま美人」でした。
過去にうちの旅館に泊まりに来てくださったお客様から、「化粧水だけでも送ってもらえないか」というお問い合わせが、ぽつりぽつりと、しかし途切れることなく届いていたのです。
鷹の家旅館にしか販売していない、温泉水入りの化粧水。コロナで来られなくなったお客様たちが、自宅で鷹の家旅館の温泉でできた化粧水を、お買い求めくださっていたのです。
その瞬間、私の中で何かが動きました。
「これだ。これを、もっと多くの人に届けよう」
第五章:「ONCOS」というブランドの誕生
ECサイトを開設しようと決意しました。実店舗のサービス業しかしたことのない私にとって、これは未知の世界への挑戦でした。
ブランドコンセプトを言葉にする。ペルソナを設定する。送料設定を考える。鷹の家旅館の物語を、どう伝えるか。商品ページのライティング。LPの構造。SNS運用。楽天市場のイベント対応。クーポン設計。アクセス解析。広告。動画制作──。
すべてが初めてのことでした。そして、すべてが大変でした。今もなお、毎日が試行錯誤の連続です。
そうしてブランドコンセプトを練り上げる過程で、「ひらしま美人」を単品商品としてではなく、「ブランド」として、世界観ごと届けたいと思うようになりました。
そうして生まれたのが、温泉コスメブランド「ONCOS(オンコス)」です。
名前の由来は、「温泉(ONsen)コスメ(COSme)」を組み合わせた造語。
植木温泉が130年かけて育んできた湯の力。九州の自然がもたらしてくれる恵み。それを、肌に直接届けるための、自然派・無添加・敏感肌の方にも優しいスキンケア。
そんな思いを、この4文字に込めました。
新商品の開発では、必ず最初に、肌の弱いスタッフに使ってもらうのが私たちのルールです。「敏感肌の方が、心からホッとできる化粧品」──そこが、ONCOSの絶対に譲れない出発点だからです。
第六章:130年の温泉が持つ、科学的な力
ここで、ONCOSの源である鷹の家旅館の温泉について、少しデータをご紹介させてください。「肌にいい」というのは、決して感覚的な話ではなく、温泉分析表によって科学的に裏付けられたものなのです。
| 項目 | 数値・特徴 |
|---|---|
| 泉質 | アルカリ性単純硫黄泉 |
| pH値 | 8.9(アルカリ性) |
| 硬度 | 4mg/L(超軟水) |
| ナトリウムイオン | 250.8mg/kg(保湿成分) |
| メタケイ酸 | 53.9mg/kg(美肌サポート成分) |
| 炭酸水素イオン | 373.3mg/kg(お肌すべすべ成分) |
4大美人泉質のうちの一つ
温泉業界には「4大美人泉質」と呼ばれる泉質があります。「炭酸水素塩泉」「硫酸塩泉」「硫黄泉」「アルカリ性単純温泉」の4つです。鷹の家旅館の温泉は、このうちの「硫黄泉」かつ「アルカリ性」という、4大美人泉質の特性を併せ持つ、希少な温泉です。
pH8.9 のアルカリ性がもたらす”トロトロ”の湯心地
pH7.5~8.5未満が「弱アルカリ性」、pH8.5以上が「アルカリ性」と定義されます。pHが高くなるほど、肌の古い角質を柔らかくする働きが強くなります。とはいえ、強すぎると刺激になるため、pH8.8前後が美肌効果と肌へのやさしさのバランスがちょうど良いと言われています。
鷹の家旅館はpH8.9──まさに「ちょうど良い」その範囲に、ぴたりと収まっているのです。
硬度4mg/L の”超”軟水
そしてもう一つ、私たちが密かに誇りに思っているのが、硬度4mg/Lという「超軟水」であること。軟水は、肌に成分が浸透しやすく、洗い上がりも柔らかくなります。「うちの温泉、お肌にやさしくトロトロして気持ちいい」──お客様からよくいただくこの感想は、まさにこの数値の裏付けがあったのです。
そして、忘れられないあの赤ちゃんのこと
記事の冒頭でお話しした、重度のアトピーを抱えたあの赤ちゃん。1ヶ月ほどでみるみる症状が落ち着いていく姿を、私は今でも忘れることができません。さすがに「うちの温泉、本当にすごい」と、家族の宝物の凄みを改めて思い知らされた出来事でした。
もちろん、温泉も化粧水も、医薬品ではありません。すべての方に同じ効果があるとは申し上げられません。ただ──130年の歴史の中で、この湯に救われたという声を、私たちは数え切れないほど聞いてきました。その湯の力を凝縮したのが、ONCOSなのです。
第七章:ONCOSが、届けたい人へ
ONCOSを通じて、私が叶えたい願いは、いくつかあります。
一つは、植木温泉と鷹の家旅館のすばらしさを、ここに来ることができない方にも届けたいということ。距離や、時間や、体調や、人生のフェーズ──さまざまな理由で、植木温泉や鷹の家旅館に来られない方がたくさんいらっしゃいます。そんな方にも、自宅で植木温泉の力を感じていただきたい。
二つ目は、地方の温泉街に、希望を灯したいということ。私たち植木温泉と同じように、各地の温泉地が、人口減少や旅行スタイルの変化に苦しんでいます。「うちの旅館はこんな素晴らしい温泉を持っているのに、なかなか伝わらない」──そう悩む同業者の方々の、一つの手本になれたらと思っています。
三つ目は、これが一番、心からの願いです。
「肌の悩みで、心まで疲れてしまった方の救世主になりたい」
ゆらぎ肌の方。敏感肌の方。アトピーで長年悩まれている方。
「自分に合う化粧水が、なかなか見つからない」──そんなため息を、もう何度ついてきたか分からないあなたへ。
ぜひ一度、ONCOSのひらしま美人を、肌にのせてみてください。130年の歴史を持つ植木温泉の湯の力が、あなたの肌に、優しく寄り添えるかもしれません。
そして、いつか、植木温泉まで遊びに来てください。化粧水のもとになった温泉に、ご自身で浸かっていただくことが、私たちの何よりの喜びです。
初代が田畑を売って始めた家業。
二代目が真摯に育ててくれた家業。
そして三代目の私が、新たに広げていく家業。
その物語を、ぜひ一緒に紡いでいけたら嬉しいです。


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